この事例の依頼主
60代 女性
相談者は、60代の女性のXさんという方でした。Xさんの父親は、要介護状態になり、老人介護施設に入居しておりました。老人介護施設に入った後は、長女であるAさんが老人介護施設に見舞いに行くなどしており、また、事実上、父親の財産の全てを管理をしておりました。Xさんは、Aさんが適切に管理をしてくれていると思っていたため、そのことについては何も言わないままでおりました。Xさんの父親が亡くなった後、Aさんから「遺産分割協議書」にサインをしてくれと求められました。Xさんとしては、どのような遺産があるのかわからなかったため、Aさんに「どれだけの資産があるのか資料を見せて欲しい。」と言う話をしましたが、「私のことが信じられないのか?」と言って、何の資料も見せてくれませんでした。Xさんとしては、このまま「遺産分割協議書」にサインをしてよいのか疑問に思い、当職のところに相談に来られました。
当職としては、Aさんが財産開示をしない点について不信感を覚えたため、遺産分割協議書にサインをすることを拒否するようにXさんに伝えた上で、遺産分割調停を起こすことを提案しました。調停手続きの中でAさんに全ての相続財産の資料を提出させ、当職がXさんの父親の口座を全て調べたところ、キャッシュカードを利用して1回50万円ずつ(1回の引き出し限度額)を4年間ほど引き出し続け、最終的には、1600万円ほどの資金が引き出されていることが発覚しました。しかも、そのうち1年間(400万円相当)は、Xさんの父親が寝たきりになっている状況の下での引き出しでした。遺産分割調停の中では、1600万円の引き出したお金の使途が争点になり、Aさんは、「父親から引き出してくれと言われたので引き出した」と言う言い訳をしておりました。もっとも、老人介護施設施設にいる父親が多額の金銭を使うことは常識に照らして、通常考えられないので、調停手続きの中では、「使途不明金」は、きちんと相続財産に組入れられるべきであるとの主張をしました。相手方もさすがに、全部を父親が使ったと言う事は言えなかったためか、1600万円中の1000万円分については、相続財産に組み入れることを認めることになりました。
本件のように、いわゆる「使途不明金」問題については、不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟などの民事訴訟で解決をしてくれと調停委員に言われてしまいます。訴訟になると時間・労力・費用がかかるため、当事者の負担がとても大きくなってしまいます。ある程度、譲歩をした上で遺産分割調停の中で解決を図るというのも一つの戦略であると思います。訴訟になると使途不明金問題の主張・立証はとても難しいというのが実情です。弁護士に調査を依頼をした上で、訴訟での勝訴可能性が低い場合には調停である程度譲歩してでも、相続財産に組み込みをさせるのが望ましいと思います。