この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談前の状況
農地10筆を宅地に転用する目的で売買契約を締結し,代金の大部分を支払い,売主から農地転用の許可申請をしてもらおうという段階で売主が亡くなりました。相続人の間で遺産分割協議が進まず,このため,所有権を移転する手続を進めてもらえません。農地の売買は,農地法上の許可を受けなければ効力を生じません(農地法3条,5条)。農地を農地以外のものに転用するために売却しようとするときは,原則として都道府県知事の許可を得ることが必要です。それなのに,この許可の手続に協力してもらえないというわけです。
解決への流れ
いろいろ調べた結果,農地の売買契約の後にその農地が非農地化したときには,直ちに売買契約の効力が生じるという判例を見つけました(最判昭和42年10月27日)。本件では,売買の交渉が始まった時点で売主が耕作をやめていたため,次第に農地が荒廃し,その後数年経った時点で原野と評価される状態になっていました。そして,その事実は,農業委員会が,非農地証明書という書面を発行して証明してくれることを突き止めました。非農地証明書を入手して,被相続人達を被告とする訴訟を提起し,残代金の支払いと引き換えに土地の引渡しと移転登記を命じる判決を得ることができました。
農地法を扱った経験は3件か4件で,あまり馴染みがなく苦手意識もありました。しかし,判例を発見したために何とか処理できました。被告になった方達は,こちらが支払ったと主張する代金が,亡くなった売主の口座に見当たらないというので不信感をお持ちになったようでした。こちらには,数回に分けてお支払いしたことを示す領収書がありましたが,それでも納得していただけない方があったので,裁判もやむを得ませんでした。