犯罪・刑事事件の解決事例
#過失割合 . #慰謝料・損害賠償 . #死亡事故

【死亡事故】【過失割合】【訴訟】自転車と自動車の衝突による死亡事故で、刑事手続の処分結果に遺族の心情を反映させ、損害賠償請求訴訟では葬儀関係費・死亡慰謝料・遺族慰謝料などで高水準の賠償を勝ち取った事案

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藤本 一郎 弁護士が解決
所属事務所だいち法律事務所
所在地大阪府 大阪市北区

この事例の依頼主

20代 男性

相談前の状況

ご遺族は、当初、他の法律事務所の弁護士に対応を依頼していました。しかし、その弁護士の対応が不十分であることに不満を持っていました。また、その弁護士が体調を崩して法律事務所を閉鎖したため、後任の弁護士を探された後、当事務所にご依頼を頂きました。この時点で、刑事・民事の状況は以下の通りでした。①刑事手続すでに警察の捜査は終了し、検察庁に送致されていました。そして、検察庁での捜査もかなり進んでおり、担当の検察官は、加害者(被疑者)を不起訴処分にする方針を示していました。ご遺族は、加害者に厳罰を科すことを希望していたため、不起訴処分にされそうな状況に強い不満を持っていました。②民事手続前任の弁護士は、受任した直後に、自賠責保険金の請求手続を行っており、すでに死亡保険金の上限額である3000万円の自賠責保険金を受け取っていました。

解決への流れ

【刑事手続】1 起訴前の対応受任後、速やかに検察官と連絡を取り、ご遺族と一緒に面談する機会を設定しました。初回は、捜査状況と処理方針を確認するとともに、ご遺族の心情と方針への不満を伝えました。その後も、ご遺族と一緒に検察官と面談する機会を持ち、ご遺族の不満を伝えるとともに、事故の発生状況に関する疑問点を指摘したり、有罪立証の可能性について議論したりしました。最終的に、検察官は、方針を変更し、加害者を公判請求しました。ご遺族とともに、粘り強く、起訴するように訴えかけたことが功を奏したと思います。2 刑事裁判での対応刑事裁判において、加害者は、被害者の動きを予測できず、回避も不可能だったとして、無罪を主張しました。しかし、裁判所は、加害者は、かなり離れた地点から自転車の存在を認識しており、自転車の多少の進路変更を予見できたし、減速と安全な側方間隔の保持によって事故の発生を回避することも可能だったと判断し、有罪と判断しました。この手続では、被害者参加制度を利用し、被告人質問・被害者論告を行いました。また、ご遺族には、「心情に関する意見陳述」も行って頂きました。【民事手続】1 手続の選択刑事手続が終結した後、訴訟することに決まりました。訴訟を選択した理由は、以下の通りです。①加害者が不誠実な対応を続けており、遺族は、一定の譲歩が必要となる示談交渉を選択する心情ではなかった②過失割合が重要な争点と見込まれ、裁判所に慎重に判断してもらうことを希望した③被害者が大学生だったため、損害額が高額化すると見込まれた④刑事手続が終わるまでに事故から3年が経過しており、遅延損害金が相応の金額になると見込まれた2 裁判の争点この裁判における主な争点は、以下のとおりでした。①過失相殺加害者は、事故の発生について責任はないと主張しました。②逸失利益の基礎収入加害者は、被害者は大学生であり、大学を卒業していないから、男性大卒者の平均賃金ではなく、男性学歴計の平均賃金を採用すべきと主張しました。③葬儀関係費葬儀関係費の額も主要な争点になりました。④慰謝料慰謝料の総額、被害者の姉に固有の慰謝料を認めるべきかが争点になりました。3 裁判所の認定①過失相殺被告は、自転車の進路変更を予見できず、回避も不可能だったので、被告には責任がないと主張しました。これに対し、原告は、安全な側方間隔が保持されていなかった、被告車の30㎞/h近い制限速度超過、被告の前方不注視などの事実を主張し、重大かつ悪質な注意義務違反によって事故を発生させたと主張しました。裁判所は、被告が損害賠償責任を負うと認定し、被告に80%の責任があると判断しました。②基礎収入被告の主張は、【交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言】に反しており、裁判所は、男性大卒者の平均賃金を基礎収入にすると判断してくれました。③葬儀関係費裁判所は、この争点について、以下の通りの認定をしてくれました。・葬儀費:約199万円・墓石などの購入費:約259万円④慰謝料こちらは、以下の事情を詳細に主張し、高額な慰謝料を認めるべきであるし、被害者の姉にも固有の慰謝料を認めるべきであると主張しました。・本件事故態様の悪質性を十分に考慮すべきこと・被告の謝罪などの対応が不十分であること・ご遺族が多大な精神的苦痛を受けていること裁判所は、以下の通りの慰謝料を認定しました。合計額は3000万円です。・被害者本人:2000万円・両親:各400万円・姉:200万円

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藤本 一郎 弁護士からのコメント

この事案では、前任の弁護士がおり、途中から案件の対応を引き継ぎました。このため、当初からご依頼を頂いていた案件と比べると、対応が難しかったり、すでになされた対応が悔やまれることがありました。1 刑事手続ご依頼を頂いた時点で、検察官は、すでに加害者を不起訴処分とする方針を固め、最終的な処分が出される間際になっていました。検察官が行った不起訴処分に不服があれば、検察審査会に審査を申し立てることができますが、検察審査会が不起訴不当や起訴相当の議決をする可能性は低いですし、その後に検察庁が結論を変更して起訴する可能性も低いです。このため、不起訴処分がなされる前に、検察官と面談し、方針の変更を求める必要がありました。また、すでに方針を固めていたので、それを変更させるには十分に説得力のある論拠を提示することが重要でした。短期間でご遺族との打合せを重ね、断片的な情報から検察官を説得する材料を検討し、検察官に起訴するように訴えかけるのは大変な作業でした。結果として、検察庁が方針を変更し、加害者を起訴してくれました。そして、その後の裁判でも、加害者に有罪判決が下されました。しかし、ここまで追い込まれる前に、もっと余裕をもって対応できればよかったと思います。2 自賠責保険金の請求死亡事故では、早い段階で自賠責保険金の請求が可能になります。しかし、請求が可能になることと、すぐに請求すべきかどうかは、全く別の問題です。自賠責保険金の請求を行うか否かは、以下の事情を考慮して慎重に判断すべきです。①ご遺族の経済状況世帯で収入を得ていた唯一の存在が死亡した場合、その世帯は収入を失い、残された遺族は経済的に困窮してしまいます。この場合、ご遺族の生活の維持を最優先に考え、早期に、自賠責保険金の請求手続を行うべきでしょう。これに対し、ご遺族が経済的に困窮していなけれは、早い段階で自賠責保険金の請求手続をとる必要はありません。②刑事手続で加害者の厳罰を求めるか被害者が自賠責保険金を受領すれば、損害の一部について被害弁償がなされたという扱いを受けます。この結果、刑事手続において、加害者の処分が軽くなる可能性が高くなります。厳罰を望んでいるのであれば、刑事手続が終わるまで、自賠責保険を請求すべきではありません。③損害賠償手続への影響損害賠償請求を裁判で解決する場合、弁護士費用・遅延損害金が加算されます。ところが、早い段階で自賠責保険金を受領すれば、以後、受領した金額について遅延損害金が発生しなくなります。また、裁判所が認めてくれる弁護士費用の額も少なくなります。加害者から受領できる賠償金を最大化するのであれば、自賠責保険金を受領しないで提訴すべきことになります。本件では、前任の弁護士が自賠責保険金を請求していました。しかし、本件では、ご遺族は経済的に困窮していませんでした。また、加害者に厳罰を科すことを望んでいましたし、民事でも訴訟を選択することになりました。この状況であれば、自賠責保険金の請求手続を行わず、全ての損害額を裁判で請求すべきでした。3 損害賠償請求手続加害者に責任はないという被告の主張を否定しつつ、被害者の過失を20%に抑えることができました。また、葬儀関係費、慰謝料などでは、かなりの高水準の認定を受けることができました。訴訟を選択した成果は十分にあったと思います。